素描LXXXI

Category : 素描




役者が客を見放した。
静まり返ったステージは
照明ばかりか煌々と
宙に浮いた情熱は
もはや誰の責任でもなく
手の中でチケットは
ただ
小さく折りたたまれていくばかりだった。


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




何処へ行けばいいのだろう
(行方がわからない)

何をやってきたのだろう
(ただ取り散らかしてきただけ)

途方にくれる
真昼

(白昼夢のように)

足元の黒々とした影に
落ちる。


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




その詞は歌わない
その曲は踊らない

(壊れた蓄音機の針は飛び続け)

かかとの取れたピンヒールと
かかとの潰れたローファーで

ただ 行進を

(ただ 行進を!)

靴音高く
鳴り響け

(それも音楽?)

深夜、突然に。


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




それは
簡単なことだった

キャンベルスープの缶から
中身を取り出すように
たやすく
自我を注ぎ出して

スープ皿に
盛り付けて
スプーンを添えて
君に差し出すなんてことは

(とても飲めた代物じゃないかもしれないけれど)


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

素描LXXX

Category : 素描




立ち上がるために
言葉を

歩き出すために
言葉を

握りしめた拳を
開くために
言葉を

いったいどれだけの言葉を

君は

その胸に突き刺してきたのか。

(痛みは涙となってあふれ
もはや前は見えねども)


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

素描LXXIX

Category : 素描




ある晴れた日
君だけが傘をさしていた
確かに
君だけに降り注ぐ雨があったのだ
君は間違ってはいない


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学





少しずつ
歩き始めた。

(幾度か倒れた)

失った声で
言葉を紡いだ。

(頭の中でだ)

迷い込んだ交差点で
頭上を仰ぐ。

(途方には暮れず)

信号の青を探した。

(間違ってはいない)

君の手旗信号の旗はいつも
オムライスの上に乗っているアレで

僕は双眼鏡を片手に
群衆の中で君を探す。

(交差点を渡るなら
信号は青だ)

アスファルトに刻み込まれた
タトゥーのような横断歩道を渡り

僕はまたしても君の助言に
従ったことに舌打ちして

笑う。

テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

乾杯の後に

Category : 現代詩



テーブルに置かれた
スープ皿に満たされた
嘲笑を
スプーンで口へと運び
君は飲み干した。

次に
侮蔑をバターナイフで
パンへと塗りつけ
ひと齧り。

グラス一杯の愚弄を飲み込んで、
そうしてナプキンで口元を拭くと

「ご馳走様でした」

と、君は言ったのだ。

実に毅然と
まっすぐに前を向いて。

君への言われなき中傷を
笑いながら給仕していた者たちは
恥じ入り、頭を垂れた。

(テーブルに置かれたナプキンに
拭われたのは
噛み締めて唇の端に滲んだ
君のプライドだ)

人として生きるために
今日も食べる。

テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

素描LXXXIII

Category : 素描

言葉を
つないで

万国旗みたいに
喉から引きずり出して

そうして
今日も
シドロモドロに

笑う

テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




アスファルトで出来たタフィーを
ほおばってしまったようなものだ

その哀しみを
その痛手を

噛みしめる必要なんて
どこにも無い

だた吐き出せばいいだけだ
ゴミバケツの中へ

(あるいは生コンクリートで出来た
 ソフトクリームを
 舐めてしまったようなものだ。)

君のスイーツは
そんなもので出来ているわけがない
そうだろう?


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

素描LXXXII

Category : 素描




その流れに身を沈めると
やがて
朝の岸辺に流れ着いた
夜が流れる川の
その黒い水面に
すべてをゆだねて


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

素描LXXXI

Category : 素描




そっと
呼吸する
不安が雨のように
降ってくる夜

そっと
呼吸する
木漏れ日が射すように
痛い昼下がり

そっと
呼吸する
濡れた身体のように
身が重い朝

そっと
呼吸する

そっと

生きていくために。


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

Profile

羽島 貝(hajima, kai)

Author:羽島 貝(hajima, kai)
1973年 東京生まれ
代表著書:羽島貝詩集『鉛の心臓』
日本詩人クラブ会員
日本現代詩歌文学館振興会会員
球体関節人形師
Twitter→羽島貝@hajima_kai

中年が詩を綴る日々。

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