夢二話

Category : 現代詩

叩きつける雨の中に立ち竦む
なんだかまるまると肥えたNは
白いアンブレラの下で
途方に暮れた顔をしていた

化学のテスト範囲を
聞きに来たのだ。

と云う

他の友人達は皆
何処かへ引っ越してしまって
頼りになるのは
もう
おまえだけなので



そうは云われても
碌すっぽノートも取らない僕も
やはり途方に暮れるばかりだ

   ◎

コンビニの混雑した駐車場で見かけた
Sの姿はすっかり痩せこけていて
Sの父親が運転する車の中に
他人のような顔ですべり込んでいく

僕は

「やあ」と言ったのだが
確かに
「やあ」と言ったのだが

そう言って手を振ったのだが

(赤いブレザー姿の
 Sはなんだか
 1964TOKYOオリンピックみたいで)

そう言って両手を振ったのだが

   ◎

どちらもの友人も
遠い昔に絶交していた

どちらの友人も
昔日の姿ではなく
大人の姿だった

さいわいあれかし


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

エジプト7


先日までトップを飾っていたこの写真はテーベ ―― 今で言うルクソール。
王家の谷に聳え立つ力強い岩肌にシャッターを切った。
(*クリックで拡大)

自分がカメラを持ったのは13歳からなのだが、以来気ままにスナップを。
アルバイトをして小金を貯めては、カメラを片手に海外を飛び回る若者だった。
(その後カメラは携帯やスマホに移行)

――いま、エジプトの政治情勢をニュースで見かけると、若干辛い。

テーマ: ある日の風景や景色
ジャンル: 写真

いつもの朝。
目が覚めたその枕の中に

「さあ、起きよう」

ではなく

「もう、死にたい」

と願う日々が続き

プラットホームから眺める
毎日毎日
上を通る電車に磨り減らされた
本来ほぼ鈍器とみて間違いないレールが
鋭利なナイフの銀色をしていることに
気づいてしまったなら。

もしくは

見た目
何ら今までと変わらない世界が
どれもこれも同じ一つの物質だけで
構成されているように
あるいはパサパサな艶の無い物だと
感じられるようになってしまったなら。



そんな朝は全部、放り出していい。



そう、プラットホームで手放すべきは絶対に君自身ではない。

大丈夫。

君がいったん手放したぐらいで
全部が全部、壊れたりはしない。

(君はそこまで欲張りなのか)

生活も
人間関係も
信用も
責任も
義務も
経歴も

安心して全部放り出して

(そう、たまには周りに任せるんだ)

君はプラットホームに回れ右をして
いますぐベッドにもぐり込むんだ。

大丈夫。

その朝、見えてくる。

君が疾うに捨てるべきだったものと
君が確かに手にすることが出来るものが。

(まずは電話を!
 家族でも 恋人でも 親戚でも 友人でも 先生でも
 上司でも 同僚でも もう、このさい隣の家でも、大家でも、
 なんでもいい。
「助けて」 と云った君に
「いま行く」 と誰かが応えるまで
 そのナンバーをかけ続けろ。
 メールでは遅すぎるし届かないんだ
 君の声は)



大丈夫。



その朝のすべては――君の命の前では、二の次でしかない。


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

Profile

羽島 貝(hajima, kai)

Author:羽島 貝(hajima, kai)
1973年 東京生まれ
代表著書:羽島貝詩集『鉛の心臓』
日本詩人クラブ会員
日本現代詩歌文学館振興会会員
球体関節人形師
Twitter→羽島貝@hajima_kai

中年が詩を綴る日々。

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