ソファの陰から顔を出した疑問

「この世には詠いあげるだけの価値ある事象があるだろうか?」

愚問ゆえ

コップに注ぎ込んで
ひと飲みに

では

テーブルの上に残された

「詠うということの重要性は?」

という質問には

失笑と冷笑を浴びせかけて
鎮火

(書けないという苦しさは
 尚且つ書きたいという欲求があるがゆえに)

もどかしく込み上げる
言葉にならない言葉を

今日も

舌の上からとりあげて

詠う

テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学


探し続けている詩人が
もしも
詠わなくなっていたらば

そこに

絶望の鸚鵡が現われて

繰り返す
繰り返す

過去の睦言

(言葉は死なない
 そこに読む人のある限り)

ランプに灯りを点して
旅に出る

本当に
探し続けていた詩人が
詠わなくなったのか

その目で
その耳で

確かめるまでは

テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学


あてどない
言葉を綴って

うたを

静まりかえるような
とても静かなうたを
のぞんでいる

そのうたが

たとえようもなく降りそそいで
宝石のような輝きが

君の瞳に

灯されますようにと





テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




そんな午後は
まともに思考など抱えてはいられない
声をなくして

もくもくと

(自分は機械だと言い聞かせながら)

たんたんと

(あるいはロボットぐらい上等でもいいと思い直し)

それでも
人である何かは欠けてこぼれ落としてしまったのは事実で

そんな午後は
靴の先で取り散らかした
自分の欠片をかき集めながら
汗ばんだシャツを引っぱり
もういちど

(せめてアンドロイドくらいの見てくれは保ちたい)

前髪を掻上げ

そんな午後を
放り出すことも出来ずに
抱えている。


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




耐えきれないほどの透明感を持った質量が
こちらへとどっと押し寄せてくる。
空気を押しわけ身体の隅々までを窒息死させ
なおかつその巨大な質量の下に圧し潰さんとする水。
肺いっぱいに広がりゆく冷たい感触が
薄ら青く朧気に暗い水の中で
自分を恐怖させる。

(もがいてももがいても水圧に締めつけられた肺は
 破れて水の入ったビーチボールのように頼りなく
 右か
 左か
 上か
 下か
 浮上しつつあるのか沈みゆくのか
 漂っているだけなのか
 何故こんな目に遭っているのか
 水面はあるのか
 果たしてそれは何処なのか
 近づきつつあるのか遠ざかっているのか
 自分はもうじき死ぬのか
 何時死ぬのか
 まだなのか
 今以上に苦しいのだろうか
 今以上に恐ろしいのだろうか
 だが
 今よりも苦しく恐ろしいことがあるのだろうか
 何時までこうしていなければならないのだろうか
 このぴったりと締めつけてくる水を
 引きはがすすべはないのか
 もはや私は見捨てられたのだろうか)

「何に?」

水は神が創り出した物だと
これほど実感したことは無い



テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

プレー

Category : 現代詩




蹴飛ばされてきた噂を
うまくトスしてパスしたならば
しめやかな観衆がにわかにわきたつが
自分の胸の中は
なぜだか
ゴミ収集車に回収されたばかりの
ポリバケツのようで
臭い吐息が漏れるこの口に
ぴたりと合うフタを探す毎日



テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

真昼の灯台

Category : 現代詩




考えなければならないことが
どっと押し寄せてきた時
のみこまれ
沈没し
浮上できなくなって
肺いっぱいに吸い込んでしまった
数々の事案を
ゲホゲホと吐き出しながら
なんとか岸辺へと打ち上げられた。

(灯台は
 真昼だというのに
 沖をさして明々とともっている)

なぜ

あの時自分は
己の感覚を
信じきれなかったのか

他者の指標は
結局のところ
自らの尺度とはなり得ない

(灯台は
 真昼だというのに
 沖をさして明々とともっている)

だが

後悔は臆病を作るかも知れずとも
二度と同じ轍を踏まぬ
模索の舟にもなるだろう


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




静かに
満ちるのを待っている

(時には戦略的に攻めなければならないことも
 あるやもしれないが)

夜に積もる雪のはかない音が聞こえるくらいに

(かつて掛けてもらった
 毛布の温もりを思い出しながら)

じっと
その時を待っている

数々の失った物や人や立場が
少しずつ
少しずつ
あるものはもう戻らず
あるものは帰ってきてくれた

(そうしてそれが多分
 元からの自分の許容量)

静かに
満ちるのを待っている

その朝も

プラットホームに立ちながら
そう
あともう少し

テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学




音楽が聞こえてこない

ソファの裏から
テーブルの下
冷蔵庫の中
昨日買ったばかりの
リンゴを割ってみても
けれど音楽が聞こえてこない

(飛ぶ鳥を見なくなった空で
舞う蝶を見なくなった野辺で)

走ってはとまるを繰り返す
まだ音楽は聞こえてこない

(路面を水滴が
 穿ち始める
 雨だ!)

僕はピアノを持っていないので
可愛いあの子に借りてみる

(そして黒鍵と白鍵の間を覗き込んでみる)

時に突っ伏した床板に
耳を押しあてて

でも音楽が聞こえてこない。

首から「音楽を探しています」と書いた
看板を下げて駅前に立ってみる。

(コインは幾枚か頂いけたけれど)

音楽が消えたこの世界で
僕はどうにも途方に暮れる



その時 遠くで聞こえ始める子どもたちのハミング



わずかな手がかりを掴んで
今。





テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

レター

Category : 現代詩

失った言葉達を
チョークで道路に
叩きつけていると
無情にもスコールが
すべてを流し去っていって

(けれど
 心の何処かで
 それを心地好いと
 感じたのも確かで)

白濁した水溜まりの中
僕は幸福感に
抱きとめられていた


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学


「そこまでだ」

と叫ばれたある日の午後
声の主を探して
足元の影を覗き込んだ
路上で
僕は途方に暮れていた
(せっかくの警告も
 伝わらなければ意味は無い)
すでに
空から降ってきた
2本の矢が
僕の両足をアスファルトへと縫い止めていたので
何を
何をだと
心の中でつぶやくも埒はあかない
けれども
心の何処かで自覚も確かにあるにはあるのか
人違いだと叫び返すことも出来ない
(じりじりと日は射して
 まるで僕の焦燥感)
パラソルをさした君が
軽やかに目前を通り抜けるのを
ただ
ただ
見つめながら
「君の声ではなかったよね?」

確認することも出来ずに

(どうかあの日あの眼差しで
 一瞥をくれたあの時の君に
 僕はもはや届けようのない謝罪を
 唱え続けている)

「そこまでだ」

と叫ばれたある日の午後
手遅れな言葉の山を抱いて
いまだ
両足は2本の矢に
縫い止められたまま


テーマ: 自作詩
ジャンル: 小説・文学

声が
囁きが
泡のように小さく寄せ集まって

届いてほしい

スプーンいっぱいにすくい取った
ホイップクリームをほおばる君に










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ジャンル: 小説・文学

Profile

羽島 貝(hajima, kai)

Author:羽島 貝(hajima, kai)
1973年 東京生まれ
代表著書:羽島貝詩集『鉛の心臓』
日本詩人クラブ会員
日本現代詩歌文学館振興会会員
球体関節人形師
Twitter→羽島貝@hajima_kai

中年が詩を綴る日々。

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